成約インタビュー
「20年以上支えてくれた地域のみなさま、そして医院スタッフ達を大切にしてくれる方を」―理想の承継先を探して
2001年から地域医療に長年貢献してきた医療法人安曇会 楢本内科医院。様々な苦難を乗り越え、M&Aを経て南穂高クリニックへと新たに生まれ変わりました。今回は、楢本内科医院院長である楢本敦彦先生と奥様の弥生さんに、開業当初の想いや事業承継の背景、承継後の変化、今後の展望について詳しく伺いました。
診療に集中できる、専門特化の医院をつくるため独立開業
-どのような想いで開業されたのですか?
開業前は安曇野赤十字病院の勤務医をしておりました。消化器内科、呼吸器内科、血液内科など、幅広くさまざまな分野に対応するうちに、自分で診療所を開業し、内科をメインに総合的な外来診療をおこなうともに、内視鏡(胃カメラ及び大腸内視鏡)を中心とした、より専門的な検査を提供したいという思いが少しずつ生まれてきました。
また、病院勤務では役員業務など、組織的に必要な業務も多く、診療に集中できない状況があったことも、独立を考えた要因の一つでした。
患者さんとの直接的な信頼関係を築きながら、自分自身が診療方針を決め、患者さんとじっくり向き合える場を持てることは、私にとって大きなやりがいに感じました。
そうして43歳になる年、自宅と土地を抵当に入れて資金を調達し、開業することを決意しました。返済計画の計算をして、その年齢での開業なら返済が可能だろうと判断したのです。
開業時には特に資金面での不安が非常に大きかったのですが、成迫会計グループとの関わりが始まり、当時の担当者が資金調達のために奔走してくれたのを覚えています。
-開業してみていかがでしたか。
開業前は、先行きに不安を感じることもありましたが、開業後の走り出しは好調で、開業4か月目に、月の売上が500万円を超えたことで、今後の経営に自信を持つことができました。予防接種の繁忙期には、1日に185人の患者様を対応したこともあります。仕事の都合で朝8時や17時以降など、一般的には診療を受けられない時間帯にも対応したことで、地域の皆様に大変喜ばれました。
また、安曇野市では医師の高齢化が進んでおり、クリニックの数が少なかったため、ニーズが高かったことも追い風になったと思います。
忙しい中でも、丁寧で正確な診療を心掛けたことで、一見軽症に見えるものの実は重篤な疾患であった、というケースもいくつも発見でき、地域の皆様に信頼していただくきっかけとなりました。
開業当初は、開業医ならではの保険診療の制約に驚いたこともありましたが、逆に、開業医だからこそできる柔軟な治療や処方の自由度を実感したこともあります。
勤務医時代には得られなかった「地域の方々と密接に関わりながら行う診療」が実現できたことで、非常に充実した日々を送れていたように思います。
長年かけて築いてきたものを、継承後も大切にしてほしい
-事業承継を決断された背景について教えてください。
特に明確なきっかけがあった訳ではないのですが、年齢を重ねてきたことと、体力的にも限界を感じていたことが大きかったと思います。
例えば、私が専門としていた大腸ファイバー検査(大腸内視鏡検査)は、技術的にも体力的にも難易度の高い診療技術の一つです。しかし、内視鏡操作時に首の骨に負荷がかかり続けたことで頚椎症性神経根症という疾患を発症し、左上肢に痺れが出たため、ブロック注射を何度も打つこととなりました。その他にも、こういった体力的な不安がいくつも重なったことが承継を考える一因となりました。
事業承継を考えるにあたり、単に売却時の価格や様々な条件だけでなく「これまで医院経営に注いできた想いを受け継いでくれる方」「共に働いてきた医院スタッフ達を大切にしてくださる方」「この地域の医療を途絶えさせないよう尽力してくれる情熱のある方」を見つける必要がありました。
-M&Aのプロセスでの困難や成迫会計からのサポートについて教えてください。
成迫会計グループのサポートは非常に助かりました。最もありがたみを感じたのは、承継先として多田先生を引き合わせてくださったことです。多田先生は三年前まで信州大学医学部附属病院で教授をしていたこともあり、医師として知識・経験ともに豊富で、また、会話を重ねると、熱心で大変謙虚な方だと感じました。「この方ならば」と思える素晴らしい出会いでした。
医療業の事業継承は、承継先が希望する地域や診療科目などの条件がマッチしづらく、通常大変難しい案件であると伺っておりました。承継先を見つけるのに1年という長い時間がかかったものの、医療関係の人脈が特に広い成迫会計グループだからこそ実現できたことだったと認識しています。
また、細やかな手続きや契約条件の調整など、私たちには対応できない細かな部分を全て引き受けていただき、非常にスムーズに進めることができました。会計事務所を基盤としているために、M&Aだけでなく、経営全般のことを考えて伴走してくれたことが印象的でした。自分たちだけでは成し得なかったことなので、感謝しています。
生まれ変わったクリニック、好調なスタートに満足
-事業承継後、現在のクリニックの状況はいかがですか?
承継後、引継ぎも兼ねて、私は同クリニックに医師として、午前中のみ勤務しています。多田先生は、常に丁寧で熱心な診察をおこない、多田先生の奥様は、経理や人事、その他の裏方仕事を一手に引き受けています。おふたりの誠実さと実行力には頭が下がる思いです。承継当初の1か月間は、初めてのことばかりで大変そうでしたが、今では診療にも慣れ、私にも症例について具体的な質問をしてくださり、先生からより一層の充実感が感じられます。
スタッフも新しい方が何名か入りましたが、元々いたスタッフともうまく折り合い、今のところ目立った摩擦もなく、スムーズに運営されています。患者さんにも院長交代の説明を行いましたが、皆さん理解してくださり、変わらず通院していただいているのを見て、ほっと一息ついています。
これからの医院の発展が期待できる順調な走り出しだと感じています。 今後も成迫会計さんと協力して、更に経営が上手くいくよう、引継ぎやサポートをしていきたいと思います。
-承継した多田先生にどのようなことを期待しますか?
多田先生は、元々脳外科が専門ですが、安曇野市に不足している小児科医療など、さまざまな診療科や分野にもチャレンジして、地域医療を支えていってほしいと思っています。
また、ゆくゆくはこの医院を、ご子息の池内先生に承継されると伺っておりますので、2代にわたり、これまで築いてきた患者さんとの信頼関係をさらにさらに深め、地域医療の未来を切り開いていってほしいと期待しています。患者さん一人ひとりに寄り添いながら、スタッフとも協力してクリニックをさらに発展させていただければ幸いです。
-承継が一旦落ち着いた今、できるようになったこと、これからやりたいことは何ですか?
縁の下の力持ちだった妻は長年腰痛に悩まされながらも忙しく医院で働いてきましたので、しばらくは治療に専念してもらい、ゆっくり過ごしてほしいです。
また、私は子どもの頃から好きだったプロ野球を観戦したり、将棋を楽しんだりする時間が増えました。藤井聡太棋士のタイトル棋戦も楽しみにしていますし、のんびり国内旅行もしたいです。温泉地や観光地、県内でも開拓していない場所がたくさんあります。全国に居る大学時代の友人たちに会って周るのもいいかもしれません。
これまでずっとやりたかったけれど、時間の制約があってできなかったことを、これから一つ一つ楽しんで、これからの人生を更に豊かにしていきたいと思います。