成約インタビュー
両社で協力し合い、更なる発展を目指していきたい
未経験の状態から突然社長職に
―まずは吉田様、飯田モールドの代表になられるまでの経緯からお聞かせいただけますか。
吉田様:
私は元々長野県の生まれではなく、千葉県市川市の出身です。関東エリアで半導体のウェハーを加熱するヒーターの営業をしていました。日々業務に邁進する中、妻と知り合い、縁あって結婚しました。飯田モールドは妻の父が経営していた会社でした。ある日、経営者であった妻の父が急に体調を崩してしまいました。当時の飯田モールドには後継者がおりませんでしたので、急遽私が会社を引き継ぐことになり、妻と一緒に長野県に来ました。自分が社長になるなんて全く考えていなかったので、まさに青天の霹靂でした。引継ぎ後間もなく社長は亡くなってしまいました。それが今から約26年前になります。飯田モールドに入った当時は営業をやりたいというのが本音でしたが、製品を知らなくては始まらないということで、まずは現場に入りました。成形の知識も経験も無く、非常に苦労しましたね。
廃業が頭をよぎった。でも、頑張ってくれている従業員を守りたい。
―M&Aを検討するに至った経緯をお聞かせください。
吉田様:
65歳を過ぎた頃から引退を意識しました。その頃から後継者を探していたのですが、見つけることができませんでした。同業の若い方にお願いしたこともありましたが、結局引継ぎには至りませんでした。家族にも従業員にも対象者がいなかったのでどうしようかと悩みましたね。一時は廃業を考えたこともあります。ですが、自分が継いだ責任もありますし、何より頑張ってくれている従業員の雇用を守りたかったので、どうすればいいかと悩んでいた時に飯田信用金庫さんからM&Aについて教えていただきました。とにかく動き出さなければ状況は変わらないと思い、妻とも相談をし、お相手探しをお願いすることにしました。信頼できる信金さんの後押しがあったから決断が早かったかもしれません。
―そうして後継者探しが始まりましたが、当時はどんなことを感じていましたか?
吉田様:
ここ2~3年は業績も下降気味だったこともあり、本当に自分の会社を継いでくれる方が現れるのかなという気持ちはありました。なので、とにかく従業員の雇用を守ってほしいという点だけお伝えいただくように話していました。正直、何年もかかったら辞める覚悟もありました。あと、従業員には秘密にして水面下で動いていましたので、情報漏洩をしないように気を付けていました。取引先も同様ですね。
グループ内でのシナジーを意識したM&A
―ここから譲受企業であるフジ精密工業の藤﨑社長にお話を伺います。今回、飯田モールドさんに興味を持たれた経緯を教えてください。
藤﨑様:
以前から射出成型の会社をグループの仲間にできればと考えていました。金型製作において、プレス金型の加工機械と射出成型の金型の加工機械はほぼ一緒です。設計だけできればプレス金型もモールドの金型も両方同じところで作れると思っていました。また、モールドも自社で対応できる体制にしておけば幅広いニーズも対応ができるようになると考えていました。長野県M&Aセンターの松澤さんと案件を探していまして、見つけたのが飯田モールドさんでした。希少な熱硬化性プラスチックを扱っているという特徴的な部分に惹かれ、話を進めていくことになりました。また、決算書を拝見し、非常にきれいな決算書だったので社長はきっと誠実な方なんだろうなという印象を持ちました。
―その後、初めてお会いする日が来ました。まず吉田社長、買手候補としてお会いされたフジ精密工業の藤﨑社長はどんな印象でしたか?
吉田様:
初めてお会いした時は、私と同じで2代目社長という境遇に親近感が湧きました。話をしていく中でも、仕事に対する思いなどを聞く中で非常に好印象でした。その頃からこの社長に任せたいと感じていました。その後の様々な条件決めの際もこちらの希望を聞いてくださり、とても感謝しています。本当に良い方と巡り会えたという嬉しさが大きいですね。
―藤﨑社長は吉田社長の印象はいかがでしたか?
吉田様:
初めて会った時に具体的な業務について、話し合えた際に、仕事に対する考え方や姿勢を伺えて、その時に誠実な方だなと思いました。決算書から感じた印象通りでしたね。私は直感を大切にするタイプですが、吉田社長に対しても直感的にうまくやっていけると感じました。その後、工場の見学をさせていただき業務上のお話をお聞きしながら今後の構想を考え始めていましたが、飯田モールドさんは特徴のある会社でしたので当社と協力しながら互いに成長していけるイメージができました。
最終的に譲受の決め手となったのは吉田社長のお人柄です。
仕事が好きで中小企業に対する思いなどが共感できました。松澤さんを通じて、吉田社長が私に対して飯田モールドを任せたいと思っていただいているというお気持ちもお聞きできたので迷わず決断しました。
両社で協力し合い、更なる発展を目指していきたい
―無事に成約を迎え、今の率直なお気持ちをお聞かせ下さい。
吉田様:
自分が継いだ会社が存続するということでほっとしていますし、連帯保証が解除されて肩の荷が降りたという気持ちもありますね。また、成約式で娘からの手紙がサプライズで用意されていたのは嬉しかったです。今後も引き続き現場で働かせていただくことになっているので、藤﨑社長の足を引っ張らないように頑張っていきたいです。個人的には海釣りが好きなので、コロナの状況が落ち着いたら行きたいです。あとは競馬ですかね(笑)。妻ともゆっくりお酒を飲む時間ができればいいなと思いますね。
藤﨑様:
吉田ご夫妻には引き続きお世話になります。まずは健康第一。できるだけ長く勤務していただければと思います。業界に関することもご指導いただきたいと思いますし、力を合わせて頑張っていきましょう。
―藤﨑社長にお聞きします。飯田モールドさんと提携し、今後のビジョンを教えてください。
藤﨑様:
M&Aは今回で2件目になります。以前M&Aで譲り受けた別会社に、グループ会社の省力化機器の設計・開発を行って生産技術部のような役割を持たせていきたいと考えています。まずはグループ内で省力化できるものは随時していき、営業はフジ精密工業が一手に引き受けることで、グループ内で効率化を進めていきたいです。さらに、インサート成形をグループ内でできるよう体制を整えていき、レスポンス良く幅広いお客様のニーズに対応していけるようにしていく予定です。
相談しにくい事だからこそ、信頼できる専門家に頼る
―藤﨑社長にお聞きします。(有)長野県M&Aセンターの印象はいかがでしたか?
藤﨑様:
フットワークが軽くて、基本的に丸投げしておけるという安心感がありました。また、ざっくばらんに相談ができる間柄で、大手の仲介会社とは違った柔軟性があり、中小企業に寄り添ったイメージを持っています。
また、情報共有を密にしてくれるし、とりあえず思ったことを伝えて任せておけば物事が進んでいくのでありがたいと思っています。また次の機会もお願いしたいと思います。
―M&Aのメリットはどんなところにあると考えますか?
藤﨑様:
『スピード+変化への対応』だと思います。M&Aを活用することで、現在の変化が激しい市場環境において、常に環境に適応できる体制構築が、スピード感を持って実現できると考えました。1つの商材に依存していると、環境の変化でその仕事がなくなった時に生き残れない。どんな環境になっても時代の流れに対応できるように準備したいと思っていました。
―最後になります。吉田社長より、同じように悩んでいらっしゃる経営者の方にメッセージをお願いします。
吉田様:
後継者がいないという悩みは相談がしにくいことですが、信頼できる方を見つけ、信頼できる方に相談をしてみること。そして信頼できる方に任せるということが重要だと思います。自分ができないことは専門家に任せることが成功のポイントだと思いますね。私自身も本当に引継ぎ先が見つかるのかという不安もありましたが、無事会社を継いでもらうことができました。悩んでいるだけでは状況は変わらないので、まず動いてみることが重要ではないでしょうか。